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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)3299号 判決 1982年10月22日

原告

中之島ロイヤルハイツ管理組合

右代表者

中堀隼夫

原告

株式会社東邦レーンズ

右代表者

曽我普容

右両名訴訟代理人

大畑浩志

被告

大倉興産株式会社

右代表者

大倉康雄

右訴訟代理人

藤原光一

西川元庸

谷口由記

主文

一  被告は原告中之島ロイヤルハイツ管理組合に対し、金二〇一万八五六〇円及びこれに対する昭和五七年七月九日から支払済みまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

二  被告は原告株式会社東邦レーンズに対し、金一四〇万円及びこれに対する昭和五六年二月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  (原告中之島ロイヤルハイツ管理組合)

主文第一項と同旨。

2  (原告株式会社東邦レーンズ)

主文第二項と同旨。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(原告中之島ロイヤルハイツ管理組合)

1 原告中之島ロイヤルハイツ管理組合(以下「原告管理組合」という。)は、大阪市北区西天満三丁目六八番地の一所在鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリート造陸屋根一一階建、延面積4871.13平方メートルの建物である中之島ロイヤルハイツ(以下「本件建物」という。)につき、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)二三条に基づいて定められた中之島ロイヤルハイツ管理規約(以下「本件管理規約」という。)による管理組合であり、権利能力なき社団である。

被告は右建物の区分所有者であり、右建物を建築分譲した株式会社である。

2 右規約一三条及び一七条には、区分所有者は、共用部分の共有持分割合により、管理費及び積立金(以下「本件管理費等」という。)を管理組合に支払うべき旨規定されており、その約定遅延利息は日歩四銭である。

3 本件建物は、昭和五四年一〇月三〇日竣工したところ、右建物については、昭和五六年二月までの間に別表一記載のとおり未売建物部分が生じたが、いずれも被告の所有であるから、被告は前記規約に基づき未売建物部分の管理費及び積立金を負担すべき義務がある。<以下、事実省略>

理由

第一原告管理組合の関係について

一同原告の請求原因1の事実のうち原告管理組合が権利能力なき社団であることを除くその余の事実は当事者間に争いがない。

そこで、原告管理組合が権利能力なき社団であるか否かにつき判断する。

<証拠>によれば、原告管理組合は区分所有法二三条に基づき定められた本件管理規約二八条により建物の共用部分及びその敷地の維持管理及び環境の安全性・快適性を確保することを目的として本件建物の区分所有者によつて結成されたこと、右管理規約によれば本件建物の区分所有者は全員が区分所有権を取得すると同時に当然に管理組合の組合員となり区分所有者全員で集会が構成され、定期集会、臨時集会が招集されること、区分所有者は共有持分に応じた議決権を有し集会の議事は集会の二分の一以上の議決権を有する区分所有者の出席の下にその議決権の過半数で決すること等が定められていること、原告管理組合の代表者理事長には中堀隼夫が就任し、昭和五六年三月以降は被告から本件建物の管理業務を引き継いでおり、被告も右実態を承認していたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。してみれば、原告管理組合は、団体としての組織を持ち、代表者の定め、各区分所有者の意思決定機関である集会の運営等団体としての主要な点は確定しており、かつ現実に管理業務を行つているものであるから、権利能力なき社団として、当事者能力を有する(民訴法四六条)ものと解するのが相当である。

なお、本件管理規約には管理組合の代表者の選任方法等の規程を欠くが、前記中堀隼夫が原告組合の構成員である各区分所有者の総意の下に理事長なる名称の下にその代表業務に従事している実態を否定することはできないから、右規約上の文言の欠落は前記認定を左右するものではない。

二被告の管理費支払責任について

1  <証拠>によれば次の事実を認めることができる。すなわち、

(一) 被告は本件建物を建築し分譲したが、右建物は昭和五四年一〇月三〇日竣工し、翌一一月一日から入居が開始した。

(二) 被告は本件建物につき入居者との間で土地付区分建物売買契約を締結した。右契約書にはおおむね次の規定がある。

(1) 売買物件の所有権移転時期は買主が売主に売買代金全額の支払を完了したときとし、買主に対する建物専有部分の鍵の交付をもつて売買物件の引渡しとする(七条)、

(2) 売買物件に対する公租公課共用部分の負担金、その他諸経費及び電気、ガス、上下水道料等は引渡しの日の前日までのものは売主の負担、その日以後のものは買主の負担とする(一一条三項)、

(3) 買主は売買物件の引渡しを受けた時より、売買物件の共用部分の管理及び使用については別に定める管理規約及び使用細則等の定めに従う(一九条)。

(三) 土地付区分建物である本件建物につき建物その敷地及び附属設備・附属施設の管理並びに環境の維持について区分所有者全員の合意により本件管理規約が定められた。右規約にはおおむね次の規定がある。

(1) 区分所有者は敷地及び建物の共有部分の管理に要する一切の管理費用をその共用部分の共有持分割合により負担しなければならない(一三条)、

(2) 区分所有者は、建物の引渡しを受けたときより、その利用の有無にかかわらず、管理費を管理者に支払う(一六条一項)、

(3) 区分所有者は共有共用部分の修繕費、積立金を管理者に支払う(一七条一項)、

(4) 区分所有者が管理費等の全部又は一部の支払を遅延したときは、その遅延額につき日歩四銭の割合で遅延利息を支払わなければならない(二一条)、

(5) この建物の竣工時より向こう一年間までは被告が管理者となり、区分所有者は、別に締結した管理委託契約書の定めるところに従い、敷地及び建物の共用部分並びに附属設備、附属施設の管理を右管理者に委任する(二四条一項、二五条)。

(四) そこで、管理者である被告と区分所有者との間では、おおむね次の規定を含む管理委託契約書を締結した。

(1) 区分所有者は管理者に対し本件建物の管理並びに環境の維持に関し必要な処理を委託する(一条)、

(2) 管理者の委託業務の内容は、(ア)共用部分の清掃、保全、附属設備の保守、その他共用部分の維持管理、(イ)管理費用の処理、(ウ)共用部分に対する損害保険契約に関する事項、(エ)官公庁、町内会関係業務の処理、(オ)その他建物、その敷地及び附属施設の管理並びに環境の維持に必要な一切の業務とする(二条)、

(3) 区分所有者は管理費用を負担する(四条一項)、

(4) 管理期間は建物の竣工の日より一年間とする。以後の管理については、区分所有者と管理者の協議の上取り決めるものとする(一一条)。

(五) 本件建物の分譲開始時点で総戸数六六戸のうち売却できたのは約三〇戸弱であり、その後も分譲は思わしくなく、未売建物部分が多く残つたが、その未売建物部分の所有者は分譲業者の被告であつた。

(六) 本件管理規約に基づき当初被告が管理者として本件建物を管理しており、昭和五六年三月一日からは原告管理組合がその管理を引き継いだが、その後原告管理組合と被告との間で前記の管理委託契約書は作成されず、原告管理組合から被告に対し集会の招集通知はなされていない。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、本件管理規約は被告がその文案を用意したいわゆる原始規約であつて、その文言上は必ずしも十全なものではないが、少なくとも昭和五六年三月以降は原告管理組合は本件建物の管理者として管理費等の徴収権限を被告から承継し、被告はこれを承認していること、その他請求原因2の事実がそれぞれ認められる。

2(一)  被告は区分所有法は分譲建物の販売完了後から適用されるべきだと主張するのでこの点につき判断する。確かに、被告の主張するとおり分譲建物の買主と分譲業者とでは右建物の区分所有の目的及び態様につき違いがあることは否定し得ないところであるが、そのことから直ちに被告主張のごとき解釈がなされるべき法文上の根拠はない。すなわち、区分所有法一条によれば、「一むねの建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居・店舗・事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」旨規定し、右のごとき区分設定された建物については当然に区分所有法の適用があり、共用部分の共有関係及びその管理関係は不可避的に発生するものであると解される。本件建物は正に同法所定の対象建物の要件を備えていることは明らかであり、かつ被告は分譲業者であるが、販売開始の時点で本件建物の区分所有権者であることに変わりはなく、これを販売完了の時点まで別異に取り扱うべき法文上の根拠はない。もし、被告主張の解釈をとると、販売完了時点が売買物件により一定せず、分譲業者が自らその一部を取得する場合との区別が明らかではなく、時には完売できない場合も起こり得ることが予想され、その間もし区分所有法が適用されないとすれば、他の区分所有者に対する関係又は区分所有者相互間の法的規整は不明確、困難となり法律関係が不安定となるおそれがあり、同法の趣旨を著しく逸脱するものであつて、被告の前記主張は到底採用することができない。

とすれば、規約に別段の定めのない限り共用部分はすべて各区分所有者全員の共有に属し、各共有者は、その持分に応じて、共用部分の負担に任ずる(同法四条一、二項、一四条)というべきである。

そして、前記認定のとおり本件管理規約には右区分所有法にいう別段の定めもないばかりか、区分所有者の管理費、積立金支払義務を規定しているのであるから、未売建物部分の所有者である被告も右支払義務を負うものというべきである。

(二)  被告は分譲業者は管理者の管理の受益者でないと主張する。しかしながら管理者の業務内容は前記認定のとおりであり、その業務遂行に要する費用が管理費であるところ、右業務内容を仔細に検討すれば、分譲住宅の購入者である既売建物部分の所有者にのみ利益となる内容のものばかりではなく、同時に分譲業者にとつても共用部分の維持管理という面から必要な性格の内容のものと推認されるから、他にその不受益性についての具体的な主張立証のない限り、被告は本件管理費の支払義務を免れないものというべきであり、この点の被告の主張も失当である。もつとも本件管理委託契約書一一条によれば、その後管理者となつた原告と区分所有者である被告との間で管理費の負担につき協議をする余地が残されており、右協議において具体的な不受益性等が検討されることが予想されるが、仮に右の点を考慮しても、本訴請求は弁論終結時までの管理費のうちの一部請求であり、被告の負担すべき管理費が右請求額以下であることを認むべき証拠はない。

(三)  また、未売建物部分につき既売建物部分と同様の意味での引渡しがないこと、さらに、買主と売主間で締結されている管理委託契約が未売建物部分につき締結されていないことは前記認定事実により明らかであるところ、被告はこれを管理費等支払義務がないことの根拠として主張する。

しかしながら、分譲業者は区分建物を分譲のため建築した時点から既に右建物の原始取得者として所有権者となるのであるから、順次分譲により区分所有者となる個々の買主と同じ意味での引渡しがないのはむしろ当然のことである。したがつて本件管理規約一六条を根拠として管理費負担義務を免れることはできない。すなわち、管理組合の組合員たる資格は区分所有権の一つの属性であり、区分建物についての共用関係及び管理関係の発生は前判示のとおり不可避のものであり、区分建物を含む一棟の建物全体につき統一のある画一的な管理関係の処理が要請されるのであり、それゆえそれに要する費用は、別段の特約をしない限り区分所有者相互でその共有持分に応じて負担する義務を負うというべきである。したがつて管理規約や個々の管理委託契約それ自体が管理費支払義務発生原因と考える必要はないのである。

特に、本件のように分譲当初の管理者と分譲業者が同一人である場合、被告の主張する管理委託契約の締結はこれを期待し得るものではなく、右契約が締結されていないからといつて管理費等支払義務を免れるのは前判示の管理法律関係からいつて相当でない。

結局、被告の法律的主張はいずれも採用できない。

三請求原因3のうち、昭和五四年一一月分から同五六年二月分までの未売建物部分についての管理費、積立金の額が原告主張の額であること、被告が右同期間の積立金合計三七万五〇八〇円の支払義務を原告に対して負担していることは当事者間に争いがなく、昭和五六年三月分から同五七年六月分までの未売建物部分についての管理費、積立金の額が原告主張の額であることは被告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。しかして、被告が右管理費を支払うべき義務があることは前記二において判示したとおりであるから、被告は原告に対し、昭和五四年一一月分から昭和五七年六月分までの管理費及び積立金として合計六五四万三六八〇円の支払義務があることになる。<以下、省略>

(久末洋三 塩月秀平 中本敏嗣)

別表一、二、別紙明細書<省略>

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